1. 【御利益】
- 地盤安定・基礎固め(精神的・物理的な基盤を整える)
- 田畑守護・五穀豊穣(土壌を肥やし作物を育てる)
- 陶磁器守護・工芸上達(土をこねて物を生み出す仕事の守護)
- 鎮火・防災(土で火を伏せる、災難除け)
- 安産祈願(母なる大地としての生命力)
2. 【概要と由来】
ハニヤマヒメ(埴山姫神・波爾夜須毘売神)は、日本神話において「土」そのものを神格化した女神です。
その誕生は非常に劇的で、国生みの母神・イザナミが火の神(カグツチ)を産んで火傷を負い、病床に伏した際の「排泄物(大便)」から化生したと伝えられています。
現代の感覚では驚かれるかもしれませんが、古来より排泄物は「肥料」として大地を富ませ、新たな命(作物)を育む源と考えられてきました。 彼女は、終わりゆく命(イザナミ)から生まれた、次なる豊穣への「希望の土壌」なのです。
陶芸や農業など、土に触れるすべての人々を守護する存在として信仰されています。
3. 【詳細解説】
別名・表記
- 波爾夜須毘売神(ハニヤスビメノカミ):『古事記』での表記
- 埴山姫(ハニヤマヒメ):『日本書紀』での表記
神話・エピソード:命をつなぐ「土」と「水」の物語
イザナミの神産みの物語において、ハニヤマヒメは単独ではなく、対となる神様と一緒に生まれています。それが、尿から生まれた水の神「ミヅハノメ(罔象女神)」です。
神話では、病に苦しむイザナミから流れたものが土(ハニヤマヒメ)と水(ミヅハノメ)になり、彼女たちはイザナミの最期を看取ることになります。この「土」と「水」のセットは、その後の日本の産業にとって非常に重要な意味を持ちました。
- 農業の基本:土と水がなければ作物は育ちません。
- 陶器の起源:粘土(土)を水で練り、形を作る。そこにカグツチ(火)が加わることで、強固な「焼き物」が生まれます。
実際に『日本書紀』の一節では、ハニヤマヒメは火の神カグツチと結ばれ、ワクムスビ(五穀の起源となる神)を産んだと記されています。
「土」が「火」を受け止めて、新たな「実り」を生み出す。この神話構造そのものが、陶磁器産業や農業のプロセスを表しているのです。
特徴:足元をすくわれないための「グラウンディング」の神
ハニヤマヒメは、私たちの「足元=土台」を司ります。
精神的にふわふわして落ち着かない時や、先のことばかり考えて不安になる時、彼女は「まず、いま立っている場所(土)を固めなさい」と教えてくれます。 土壌がユルユルでは、どんな立派な家も建ちませんし、美しい花も咲きません。
人生の転換期に、焦る気持ちを抑えて「現実的な基盤」を見直したい時、最も頼りになる女神様です。
4. 【金沢での関連寺社・スポット】
金沢市内において、ハニヤマヒメを単独で主祭神として祀る神社は非常に珍しいですが、「火・水・土」の三神をセットで祀る由緒ある神社が存在します。
秋葉神社(金石西)
金沢の港町・金石(かないわ)地区に鎮座する神社です。
一般的に秋葉神社といえば「火伏せ(火防)」の神様ですが、こちらの御祭神にご注目ください。
- 鎮座地:石川県金沢市金石西2丁目18-23
- 御祭神:
- 火産霊神(カグツチ):火の神
- 罔象女神(ミヅハノメ):水の神
- 埴山姫神(ハニヤマヒメ):土の神
ここでは、火の神様の荒ぶる力を、水の神と土の神(ハニヤマヒメ)がコントロールし、災いを防ぐという形がとられています。 まさに、神話における兄弟姉妹神が勢揃いしている強力なスポットです。
「感情(火)が暴走しそうな時」や「トラブルを未然に防ぎ、足元を固めたい時」に、この三柱のバランスの取れた御神徳を受けにお参りすることをおすすめします。
その他:九谷焼ゆかりの地
神社ではありませんが、石川県は「九谷焼」の産地です。
土と炎の芸術である陶磁器は、まさにハニヤマヒメとカグツチの力の結晶。
金沢市内の陶芸体験スポットや、石川県立美術館で古九谷を鑑賞することも、広い意味でこの神様の領域(土の芸術)に触れる行為と言えるでしょう。
全国での関連寺社
- 愛宕神社(京都市など全国): 多くの愛宕神社や秋葉神社で、火の神と共に配祀されています。
- 波爾移麻比禰神社(徳島県): ハニヤマヒメを主祭神とする数少ない式内社。
- 埴生神社(千葉県成田市): 画像内でも紹介されていた、土の神を祀る代表的な神社。
編集後記
「大便から生まれた」と聞くと最初は驚いてしまいますが、昔の日本人は「排泄=穢れ」と切り捨てず、それが土に還り、次の命(野菜や米)を育てる肥料になるという「命の循環」を深く理解していたんだなと感銘を受けました。
私たちがトイレ掃除をすると運気が上がると言われるのも、もしかしたらこのハニヤマヒメ様が、最も汚れやすい場所を「富を生む場所」に変えてくれているからかもしれませんね。
焦って空回りしている時は、まずは部屋の掃除と、地に足をつけることから始めてみようと思います。
金沢 寺社仏閣めぐり 